「ヤマトナデシコ」
不意に、舌足らずな日本語が聞こえてきた。
風と共に桜が舞う中、その優しい声は背中――応接間からした。
その声は、優しく包み込んでいくような心地よさで。
「泣いているのですね。どうされましたか?」
突然、視界が大きな陰で覆われた。着物の袖から片目だけ上げてそちらを見る。
「どうされました?」
次は流暢な日本語だったが、アクセントが独特で、日本人でないのはすぐに分かった。
「どうぞ、私の事など、お気になさらないで下さいませ。お客様ならばすぐに誰か呼びに」
「シー……」
優しい声で、黙るようにうながされ、やっとその人をまじまじと見た。
金髪碧眼、甘い笑顔を貼りつけた、外国人。
清潔そうな白のスーツをパリッと着こなし、太陽にキラキラと光る金髪をオールバックにしている。
この本家は300年以上前から建てられた、文化遺産に指 定されている古い建物。二メートル近い外国人には天井に頭が着きそうなぐらい狭く窮屈そう。



