時間はまだ20時を過ぎてもいなくて。
調理場には明かりが着いていたのですぐに覗いてみた。

「あの、幹太さん」
「!?」


幽霊を見たかのように、ばっと振り返られ、へらりと笑ってしまった。

「お前、迎えも俺が頼まれてたんだが、どうやって帰った?」

少ししかめっ面な幹太さんは、普段なら怖かったけど今は外でデイビットさんを待たせていたから気にしない。
早口で要件だけ言って逃げかえろうと決めていたし。

「着物、預かってくれてありがとうございました。迎えは大丈夫です。幹太さんに迷惑かからないように連絡いれましたから」

今日は友人の家に泊りますとお手伝いさんに伝言を頼んできた。
生娘の言いわけみたいだと苦笑しそうだったがその通り過ぎて上手く笑えない。

その代わり、汚してしまったワンピースを綺麗にしたかっとので着たくもない着物に着替えて調理場を覗いていたんだから。

「あの外人の所か?」
呆れたように溜息を吐かれたけど、嘘を付きたくなくて頷く。
幹太さんは洗い物をしていた手を止めて、射るような目で私を真っ直ぐ見た。