廊下で土下座して謝っているのは、妹の美鈴だった。
私のように、地味で俯いてばかりの親の言いなりと違い、人目を惹くような大きな瞳に、小さな顔、器量よしで要領もよく母の言いつけなんて守ったことも無ければ、跡取りじゃないからと自由ばかり許されていた。

それでも甘え上手で、母も美鈴には優しくて羨ましかったのに。


「私が、お母さんの跡を継ぎたいって言ったの。お姉ちゃんみたいに今まで練習したことなんて無かったから本当に一からになるけど、お願いします。私にもやらせて下さい」

深々と頭を下げられ、こんなに真剣な妹を見たことがないので、私はうろたえた。


「やる気もない貴方より美鈴の方が跡取りに相応しい。貴方に望むことはもう何処かの次男とお見合いでもして体裁を取り繕う結婚ぐらいしかありません」

母からの言葉も私の胸を抉る。


母には『自分』なんて要らないと、跡取りになる為の教育しか受けさせて貰えなかった。

ピアノを受けたいと言えばお琴、
バレエを受けたいと言えば算盤、
英語を受けたいと言えば書道。


私の意見なんて通らないから、何も望んだ事はなかったのに。