「お疲れ様。凄い雨だけど傘ある? 送っていくよ?」
19時。日高さんが暖簾を下ろしながら土砂降りの空を見上げて私に心配そうに尋ねてくれた。
「全然大丈夫です。それよりお菓子の名前、メモしてから帰って良いですか」
土砂降りの雨のように、私も今にも泣いてしまいたい気持ちでいっぱいだ。
熨斗に字を書いたりするのは父のおかげで何とかなる。
でも電話番なんてまだ任せられない私には、接客や倉庫の掃除や在庫管理を教えて貰うだけなのにいっぱいいっぱいで。
和菓子の種類と値段と何をモチーフにやら練り餡なのか粒餡なのか栗餡だとき中身の説明も要る。
そんな説明だけで私の頭は回らなくなってしまった。
只さえ人と接するのは苦手なのに、これらを緊張しながら言うなら死に物狂いで覚えなきゃ。
「あーね。写メっちゃいなよ。お歳暮カタログにも色々書いてるから持って帰っていいよ。初日だからそんなに気にしなくて良いけどね」
休憩室へ向かいながら、日高さんに肩をバンバン叩かれて、よろけてしまう。
綺麗だけど豪快な人だ。



