言葉はくれない分、そっと花束くれたりケーキ買ってきたりして恋人を大事にしそう。
「ああ。俺は忘れない。一つ一つの思い出が鮮やかすぎて邪魔するんだ」
嫌になるよ、そう言うと短く刈られた髪をバサバサと掻く。
「思いは伝えないんですか?」
「言えるわけがない」
「そんな」
「と、思っていた」
ポンポンと私の頭を撫でた後、見上げた幹太さんの顔は穏やかだった。
「ほら、はねっ返りの足音。もう少し静かに歩けと伝えとけ」
そう言うと、美鈴に今の顔を見られたくないのか、そそくさと車に乗り込んでしまった。
「お姉ちゃん、今お兄ちゃんから電話があってびっくりしたよ」
お稽古中にも関わらず飛び出してくれた美鈴に微笑むと、鼻に何かが舞い落ちた。
「あれ? 雪……」
太陽の下、雪がちらちらと降り始めている。これぐらいの淡い雪ならイベントには問題なさそうだけど。
そうか。彼は照る照る坊主は作ったのに、晴れると賭けなかったのはこうなうと予想したからなんだ。



