「私は貴方と美一さんを偲びたい。だから、貴方がいいです」
はっきりとそう言うと、ジャケットを腕にかけて立ち上がる。
「話はそれだけです。仕事の休憩時間に来ただけですので、今日はこれで」
デイビットさんは母の手を取り、手の甲に唇を寄せた。
「散々待たせてしまったのに、申し訳ないわ」
「いえ。家族で話し合う事は大事です。喧嘩も時には、ね」
「まぁまぁ。意地悪ですね。デイビットさんは」
母は苦笑して、私に視線も送らずデイビットさんの後ろを歩きだす。
それに気づき、後ろを振り返るとデイビットさんは見送りもきっぱりと断った。
「麗子さんも忙しそうですから、もし見送りして下さるというなら、美麗さんをお貸し下さい」
「ええ。デイビットさんがそう言うなら、ほら、美麗」
さっきまで見えていないかと思っていたのに、母は私の名前を強い口調で言う。
咄嗟のことに、母の声に慣れてしまっている私は背筋を伸ばして「はい」と返事をしてしまう。
「返さないかもしれませんよ」
不敵に笑うと、私にウインクした。



