「幹太さんは、甘やかしてくれますよね」
運ぶ御手伝いなんて、結局身重の私には何もさせてくれないんだから。
「お前も餡の匂いで吐くよりは、旦那の顔が見たいだろ」
甘やかして……の言葉には反応せず、すぐに私の話題へ掏り替えてしまう。
自分の話や自分の気持ちを言うのは、すごく苦手なのは一緒に働いて分かってきていたけど、それはそれで私や桔梗さんに気遣っているようにも受け止められるから複雑。
「本当に大丈夫ですよ。餡の匂いはマスクでガードしていましたし、桔梗さんを一人にする方が申し訳ないですから」
山元さんや森田さん二人はベテランなので百貨店勤務への辞令が降りた。勿論、今までみたいに簡単に休んだり半日出られないと前日に言いだすような自由は、人が増えるまでできない。
それでも二人は嬉しそうにそれを了承した。百貨店までの交通費が出ることを考えると、仕事終わりに買い物出来ることが楽しみで仕方がないみたいだ。
おかげで今は、御店では大きな顔をして私や桔梗さんに仕事を押し付けることがより一層多くなってきている。



