「優しくねーよ。お前の姉みたいに御遣いに来なくなるような事がないか、ハラハラしてんだ。機嫌直せ」

美鈴の頭に紙袋を乗せると、幹太さんは台所から出てきた母に挨拶へ向かう。

嬉しそうなピンクのオーラで美鈴はその紙袋を開けると、幹太さんのように複雑な顔をして紙袋の口を何回も折って中身が見えないように胸に抱き締めた。

「どうしたの?」

私が近付くと、美鈴は唇を尖らせてしまう。

「桔梗の紋が焼き印されてるどら焼きだった」
「あら、春月堂はどら焼きが有名だし美鈴も大好きじゃない。溢れそうに詰まった大粒の餡が甘くてって」
「春月堂の家紋の桔梗から、桔梗さんの名前は取られたんだって」

私の言葉を遮りいつもの声より低い声で美鈴が言う。

「幹太さんの家には桔梗の花が一杯咲いて、それがまるで朝を待つ紫の空のように綺麗だからって。春月屋のおばさんと桔梗さんがその話で盛り上がってて。二人は、生まれた時から縁が深い幼馴染なんだもんね。羨ましい」

それでもどら焼きは嬉しいのだから、美鈴の気持ちは複雑だ。

幹太さん、せめて違う和菓子をプレゼントしてくれたら良かったのに。
美鈴の複雑な気持ちなんて、伝えない限り分からないからしょうがないけど。