「そんな挨拶はいいから、中に入ってちょうだい。まぁまぁまぁ、靴下で庭になんて」
珍しく母の厳しい表情が慌ていたが、デイビットさんはにこにこ笑ったままだ。
「小鳥がないてたので、降りてしまいました」
「まぁ。雀かしら? 人が多いから庭にまでは鳥は入って来ないのよ」
母は汚れたら靴下を気にしてハンカチを取り出すが、やんわりとデイビットさんは断り、靴下を脱いでズボンのポケットへ入れる。
そして私を見るとウインクした。
「なき方も知らない鳥でした。なかないから気づかないなんて、麗子さん達は忙しすぎて美しい鳥の姿を見逃していますね」
「貴方も生意気な事を言えるようになってきたわね。可愛いげなくてよ」
母が相変わらず冷たくズケズケと言ってはいるが、言葉尻は優しくて。
デイビットさんと親しい雰囲気が伝わった。
「…………」
なく、か。
『泣く』なのか『鳴く』なのか。
外国人のくせにデイビットさんは言葉で遊んでいて、――その使い方も大人みたいで素敵だった。



