「賭けは私の勝ちですね」
笑う。裏なんてないと思わせるように。
私は知らない。
恋愛も、身を焦がすような衝動も、駆け引きも、何も知らない。
この日まで全く知らなかった。
鳴く事も許されず、感情も殺せず不満だらけの人形だった私は。
初めて甘い賭けを知り、簡単に酔いしれて、そして負けてしまった。
「それと、私が貴方の名前をどうして知ってるかですが」
「あ、妹が……ですよね?」
「ふふ。妹さんは貴方を『お姉ちゃん』としか呼んでませんよ」
「あ……」
優しく笑いながら、そうデイビットさんは言う。
デイビットさんの唇が動くのがなんだか艶かしくて目が離せなくて。
胸がぎゅうっと締め付けられた。
「私が貴方の名前を知っているのは――……」
そう言いかけて、ふっと後ろを向いた。
「んまっ! デイビットさん!」
応接間に来た母が、デイビットさんを見て目を丸くした。
「ああ、こんにちわ。今日も美しいままですね。麗子さん」



