「森田さんまでどうしたんですか?」
「英語で和菓子の注文みたいなのよ」
慌てる森田さんから電話を渡される。
外国人がお店に訪れたり、電話注文するのはそう珍しくなく、お店にもマニュアルがあるのだけれど。
訛った英語やネイティブすぎる英語なら私も自信がないから恐る恐る電話を変わった。
「……?」
でも、受話器越しから聞きなれた単語を私はしっかりと耳にした。
電話の内容は確かに私も耳を疑った。春月堂の夏の名物、水色の涼しげな寒天の中に夏の風物詩を野菜で形どり浮かべさせた『翠雨(すいう)』という和菓子。
その和菓子を数百と注文しているから。
幹太さんに事情を説明し、おじさんへ確認してもらっていたら、その電話から聞こえてきた名前の人が入口から顔を覗かせて、きょろきょろと店内を見渡す。
そして、私を見つけると蕩けんばかりの笑顔で店に入ってきた。
「美麗」
「あ、あの、デイビットさん、今大使館から電話が来ています。デイビットさんから紹介されたとか」
挨拶もそこそこに、私はデイビットさんへ詰め寄る。
しっかりされた、そしていて日本人の私を気遣うようなゆっくりした英語で『デイビットから素敵な和菓子を食べられるお店だと紹介された』と、そうおっしゃっていた。



