やんわりと、けれどその瞳は真っ直ぐに私を捉えた。
「私は思いました。何故、貴方はあのまま引き下がったのかと。妹さんにいきなりあんな事を言われて、悔しくなかったんですか? 『いいえ。私も頑張ります。私が跡を継ぎます』……貴方の母親はその言葉を期待していたんじゃないですか?」
パチンと扇を鳴らし、顎を扇で触る仕草は手慣れている。
撫でるように扇を巧みに扱う彼には、――私の気持ちも読まれているようで。
彼の碧い瞳には、何だか嘘を吐けなかった。
「多分……私、ずっと決められて生きてきたのを文句も言えないくせに、不満だらけで。やりたくもない跡取りを土下座してまで取り返したくなくて」
目頭が熱くなり、じわじわと視界が滲んでいく。
涙は流しても声は我慢しようと唇を何度も噛む。
「明日から私は何者になるのかだけが心配な……つまらない人なんです。私」
強い決意も強い望みもないくせに、感情だけはしっかりある、操り人形。



