そう言うと、それ以上お手伝いさんは言及してこなかった。
美麗は立ち上がると、飾られた真新しいワンピースを見つめる。
控え目な色合いの服しかもっていないのは母親の趣味だ。ほぼ毎日着物だったせいか、服も言いなりでも文句の一つも出てこなかった。
今はただ、この陽性結果が出た証拠を、どこか家の外に捨てに行かなければいけない。そして、そのまま病院に――。きっと早く降ろさなければ、もっと後悔する。
降ろす――?
その恐ろしい言葉に、身体が硬直した。
「うぅ……。できな…い」
美麗は既に、お腹の子に愛着を持っていたのだから。
その時、今度はバタバタと廊下を走る音が縁側から響いてくる。
急いで涙を拭き、その音に耳を澄ませると私の部屋の方へ走ってきていた。
「お嬢様、春月屋の小百合さまからお電話です! 桔梗さんがご出産されたそうですよ!」
それは、桔梗さんと別れてからまだ半日も経っていない時間での、突然の出来事だった。



