少しだけ、少しだけ、外の世界が見たかった。
少しだけ、少しだけ、悪いことをしてみたかった。
あの夜だけは、一夜だけは、私は確かに恋をしていた。
古い言い回しをさせてもらえば、恋に酔っていたのかもしれない。
恋に恋して、周りなんて見ていなかった。それが原因だ。
素敵な夢の代償なのかもしれない。
結末、なのか。
幹太さんに下ろしてもらい、試してみたかったのは、逃げていた現実と向き合うこと。
駅のドラッグストアで買い、駅のトイレで試したのは、妊娠検査薬。
結果は陽性だった。
微熱が続いて、生理が一週間遅れていたのだが、直感でもしや、と思ったけども、まさかと気づいていないふりをした。
信じたくなかったのかもしれない。
そんなはずないと、自分で自分を言い聞かせていた。
その勘は当たっていたのだ。
だが、問題は『いつ』、だろうか、いつの間にだろうか。
デイビットさんは紳士だ。しっかり避妊してくれていた。
口で噛み、歯で破いていたのを思い出し、それがいつもの優雅な物腰ではなく『男』の人の仕草で、思わず見とれてしまっただから。



