【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!



あれから一度だけ、大使館の前を通った。

もう桜の花なんて跡形もなくて、――私も早く歩き出そうって思えた。


「今日が予定日なんだけど、全然まだ開かないし本当に産むのかしら私」

桔梗さんも相変わらずで、だけど予定日を超えたら今度は毎日診察らしく大変そうだ。

「陣痛催促剤って痛いらしいのよね。あーあ。ちょっとそこの公園で階段上り下りしてくるね」

「そのまま病院送る」

幹太さんは桔梗さんの頭を二回ポンポン叩くと、車を店側に回しに飛び出していく。

桔梗さんの代わりに一緒に入ってくれている山元さんは、そんな二人の様子を見ながら視線を私へと移す。

私は二人を見送り在庫やら調理場の出来上がりの様子だの見ながらバタバタ逃げていたが、ついにその視線から、追求されてしまう。

「あの二人って親密過ぎて怪しいと思わないの?」

「あ、いえ」

山元さんは、耳元で囁くようなひそひそ声で話しかけてくるので、自然と耳を寄せなければいけない。それが内緒話をしてしまうので私は苦手だったりする。

森田さんと二人の時はあからさまに悪口を言うのに、二人になると途端に気さくな近所のおばさんみたいに話しかけてくるのだけど、少しでも話たら、後で二人で大げさに言い合うし。