「日本の文化が美しいものですか。政略結婚で家を、家督を守っていくだけの、血だけが大事なこの文化が!」

「お嬢さん?」

「私が意志のない結婚をしても、それは私が悪いわけじゃない。私の意志が要らないこの世界が悪いんだわ! いきなり放りだして何もかもまた決められて、――それに従うしかない、『自分』がない私が悪いんだから!」
 めそめそ泣き、袖が重くなった気がしていた。化粧もぐちゃぐちゃで、せっかく日本の文化に興味を持っているこの外国人には醜く映ったかもしれない。
 ブランド品に身を包む、この上品な男に、少なくとも理解なんてされないと思っていたから。

「私の名前は、David・Bruford(デイビット・ブラフォード)。イギリス大使館で外交雑務をしております」

「へ? 大使館?」

「まぁ、外交官として日本に来ていると思って下さい。主に日本とイギリスの文化の交流やお互いの文化を理解し高め合うのが目標です。今日は、そのイベントに貴方を招待したくて参りました。――美麗さん」

私が目を見開くと、その人は目も口も蕩けんばかりに甘く滲ませて笑う。

流暢な日本語で、綺麗なビー玉みたいな碧い瞳を綻ばせ、その人は私の名前を言った。