「漣さん?」

変に思ったのか、介護士さんは私の顔をのぞき込んだ。


「あなたに話したら、なんだかあの頃に戻ったみたいに懐かしくなったわ。ありがとう」


「いえ、私こそ、貴重なお話をありがとうございます。私、いつか漣さんみたいに本当に大切な人が出来たときは、後悔しないように全力で愛したいです」


介護士さんは力強く力説した。


「えぇ、限りある時の中で、そして、沢山の人間の中で、たった一人を愛すなんて、奇跡のようなものだわ。その出会いを大切にね」


「はい!あ、漣さん、少し疲れましたでしょう?今お茶を持ってきますね」


「えぇ、ありがとう」



そして介護士さんの足音がパタパタと遠ざかる。




「陽、私はやっと……あなたの所へ行く事を許されたのかしら……?」


こんなおばあちゃんでも、笑って受け止めてくれる?


眠気が襲う。
それが、終わりだと悟った。


幸せな一生だったと思う。
あなたと生きた人生だもの、後悔や悲しい事はたくさんあったけれど、精一杯生きてきた。


死ぬことは、怖くない。
私は、陽に会いに行くのだから……



「さよ……な…ら…………」


私の生きた世界………


もし叶うなら、これから逝く先に、陽の笑顔がありますように…
そうしたら今度こそ、あなたに笑いかけてみせるから………