「私はね、あなたくらいの頃は、少し、ううん、ずっと頑固で一人で生きていけると思ってたのよ」



友達という不確かな存在や、家族でさえ、信じられなかった。私は、一人だと思ってたのね…


「じゃあ、今は…………」


その不安そうな声に私は笑いかける。


「私に、何度も拒絶されても、めげずに声をかけてきた男の子が、いたのよ」


坂原 陽…………
今もなお、私の中に生き続ける人。


「それは、まさか好きな相手だったんですか?」

「ふふっ……好きなんてもんじゃないわ、愛してたの」



この世界の誰にも埋められなかった孤独を陽だけが埋めてくれた。
この世界の誰よりも、私自身よりも、大切な人。


「漣さんは、その人と結婚されたんですか?」


結婚………
そうね、あの事故がなければ、そんな未来もあったのかもしれないわね…


「いいえ、彼は高校生の時に私を庇って亡くなったの」

「……そんなっ………」


悲しそうに言葉を詰まらせた彼女に、私は苦笑いを浮かべる。



神様は、私から目を奪い、大切な人さえも奪っていった。
希望が失われた気がした。


「後を追おうと思って、死を選ぼうとした時、私の友達が助けてくれたの。そこで言われたわ、私の命は、彼が命がけで守ったものだから、もう…私一人の命ではないとね」


陽と私の命になった。
私が生きることで、陽も生き続ける。


それが私の新しい希望だった。だから、今まで生きてこれた。



「あなたも、いつか人生が変わるような恋愛をするでしょう。その時は、どうか後悔をしないで、全力で愛する事ね」

「………漣さんは、後悔してる事があるんですか?」


後悔………
無いと言えば嘘になるけれど、叶わない願いね…


「彼が亡くなる間際、私を安心させるように懸命に笑ってくれたのに、私は悲しくて、笑ってあげる事が出来なかった……事かしらね…」


せめて、陽の最後の瞬間くらい、笑顔を見せてあげたかった。でも、私はあの頃、そんなに強くなく、弱かった。

悲しいのに笑うなんて、出来なかったのだ。


「そんな、悲しいのに笑うなんて…きっと、私にも出来ません!漣さんも辛かったはずですから…」

「ありがとう、悔やんでも、時間は戻らないものね。でもやっと、私も………」


命の終わりが近づいている。
なんとなく、次に眠ったら、もう目覚めないであろうと確信があった。