「……会いたいな」




ポツリと言いながら、窓ガラスにそっと触れる。

……あの日 薄暮さんは、本当に冷たい声をしていた。

表情はわからなかったけれど、きっと声と同じように冷たい目をしてたと思う。


……あの時、薄暮さんは何を思っていたのだろう?

300年前のこと? それよりも もっと前のこと?

それとも、全然 別のこと……?


色々なことを考えてみるけれど、私には全くわからない。

わからなくて当然だ。

私と薄暮さんは、生きてる時間が違うのだから。




「……私は17年で、薄暮さんは300年以上……か」




たった17年しか生きていない私が 数百年生きてきた薄暮さんの気持ちを理解するのは、不可能なことなのかもしれない。




「ハァ……」

「ため息をつくと幸せが逃げていってしまいますよ?」

「そうかもしれませんけど……って、えっ……!?」


「こんにちは」

「……っ……薄暮さんっ」




背後からの声に慌てて振り返ったら、そこには薄暮さんが居て、優しく笑みを浮かべていた。




「あれっ……双子ちゃんのところはいいんですかっ?」

「えぇ、秋さんとオサキに任せてきました。 何かあったとしても、ある程度は二人で対処出来ると思います」




そっか。

秋さんとオサキは今、双子のところに居るんだ。


……凄いな。

みんな ちゃんと動いてる。

なのに私は、結局逃げてるだけだ……。




「……ねぇ薄暮さん。 幽霊を相手にするのって、怖くないですか?」




再び外へと視線を移し、ポツリと言う。




「私は凄く怖いです。 だから逃げちゃうんです。 ……でもみんな立ち向かってる。 八峠さんも『怖い』って言ってたけれど、それでも動き続けてるんです」




……私は立ち止まったままだ。

1歩も前に進めていない。