通されたリビングにあるのは大きめのソファーとテーブル、あとは隅の方に何かが入ってるらしい段ボールが数個あるだけだ。

引っ越してきたばかりで片付けが済んでいない状態。というのが1番しっくり来る言葉だと思う。




「なんも無くて悪いな」

「いえ、全然。 ……家具とか、全部片付けちゃったんですか?」

「使えそうな物は全部売り払った。 俺一人じゃほとんど何も使わないし」


「そっか……」




八峠さんは段ボールの1つを漁りながらそう言い、ガラス製の灰皿を取り出すとすぐにタバコを押しつけた。

……ご両親は既に亡くなっているし、八峠さん自身もあまり家に帰っていないようだから、家具が必要無いのは当たり前のことなのかもしれない。




「とりあえず、座る?」

「あ、ですね。 座りましょうかっ」

「うん」




ソファーに座った八峠さんの横に私もちょこんと座る。

……八峠さんは何も言わず、私も何も言わない。 だから部屋の中はとても静かだっだ。


そんな中で、私は真正面にある大きな窓から庭を見つめていた。

しばらく帰ってないなんて嘘のように芝は綺麗に刈られていて、花壇には季節の花が植えられている。




「お花、凄く綺麗ですね」




微笑みながら声をかけるけれど、八峠さんの返事は無い。

ふと、隣を見ると……、




「あ……」




……八峠さんは胸の前で腕を組みながら目を閉じ、スースーと寝息を立てていた。