「幽霊なんて怖くないッ!!」



……八峠さんと私が、協力……。

私一人では何も出来ないけれど、八峠さんがそばに居てくれれば、私は変わっていける……。




「……でも、囮っていうのはリスクがありすぎると思います」




上半身を起こしながら、静かに八峠さんを見る。

確かに私は、逃げ足には自信がある。 それに、八峠さんが居てくれれば私は変わっていけると思う。


でも……それでも、怖いよ。




「長距離なんて とてもじゃないけど無理だし、信号に引っかかって止まってしまうかもしれないし、転んでしまうことだってあるかもしれない。
そういう、不測の事態に陥った時……私はどうすることも出来ずに負けてしまいます。
そうなった時のことを考えたら、凄く怖いですよ……私は生きていきたいのに、その瞬間に死んでしまうんだって思ったら、凄く凄く怖いです」




……力の強い八峠さんには きっとわからない。

逃げることしか出来ない私の気持ちなんて、八峠さんにわかるはずがない。




「……ごめんなさい。 やっぱり私には……」

「俺もさ、本当は凄く怖いよ」

「……え?」


「怖いに決まってんじゃん。 反応が1歩遅れれば死ぬ。 不意を突かれれば死ぬ。 強い力の奴と当たれば、当然死ぬ。
生と死ってのはいつだって紙一重なもんだ。 だから精一杯生きるんだろ?
怖くても動いて動いて動きまくって、その怖さを力に変えていく。 俺はそうやって生きてきたし、これからもそうやって生きていくよ」




タバコを取り出した八峠さんは それを口にくわえて火をつけたあとに、ニコッと笑みを見せた。






「大丈夫。 お前のそばには、俺が居る」





その言葉と共に、八峠さんは結界の外へと飛び出した。