「……どうしましょう、何も浮かびません」

「だろうな。 そうだと思ってた」

「……すみません……」




掃除や洗濯、料理なんかは人並みに出来るけれど、八峠さんが言ってるのはそういうことではない。

彼が言っているのは、『幽霊に対して』だ。


色々と考えてみるけれど、やっぱり私には何も出来ない。




「逃げ足には自信があるんですけど……それじゃ結局ダメですもんね……」

「……逃げ足、ね。 じゃあお前はアレだ、囮だな」

「へっ?」


「闇雲に逃げるフリをして霊たちをおびき寄せる。 で、俺が仕留める、と。
うん、意外と行けるんじゃねぇか? どうせ逃げるなら、役に立つ逃げ方にすればいい」

「ちょっ……囮とか絶対イヤですよっ!! 失敗したら捕まっちゃいますし、最悪死んじゃうじゃないですかっ……!!」




今まではギリギリ逃げ切ることが出来ていたけれど、これからはどうなるかわからない。

だからこそ八峠さんに連絡して相談しようと思っていたのに、囮だなんて、そんな馬鹿げたことは出来るわけがない。




「だが、逃げ足には自信があるんだろう?」

「そ、それは……近くに逃げ込める場所があれば、ですよっ……」

「俺が居るじゃん」


「……え?」

「お前は俺を目指して走ってくればいい。 それだけだろ?」




ニコッと笑った八峠さんは、上半身を起こしてから また私を見た。






「お前は俺のために動き、俺はお前のために動く。 二人で協力していけば、倒せない敵は居ないと思わない?」