「ハァ……ハァ……ハァ……」
「こ、の……馬鹿……なんで、避けねぇんだっ……」
「すみま、せん……」
「あぁもう、ハァ……マジ、死ぬわ……」
私に覆い被さる……というか、完全に体を預けている八峠さん。
あの……胸の位置に、顔があるんですが……。
「あ、あのっ……」
「……うるさい。 今 避ける……から、ちょっと待て」
「は、はいっ……」
呼吸はだいぶ整ってきたけれど、それでも八峠さんはまだ苦しそう。
こんな状態のところを誰かに見られたら……と思いながら道路の方を見るけれど、幸い、誰も居ないみたい。
もちろん、幽霊以外は、だ。
「……結界は相当強いものにしてるから、そう簡単には入ってこれない。 だから少し休もう。 マジで俺、死にそうだわ」
「あ、はいっ……」
私の上から横にゴロンと転がった八峠さんは、ポケットから携帯を取り出して電話をかける。
多分、薄暮さんに幽霊が追ってきたことを説明するんだと思う。
「あぁもしもし、俺。 こっちに1体来てるが、そっちは大丈夫か?
うん、うん。 わかった、引き続き頼む」
そんな短いやり取りのあと、八峠さんはすぐに電話を切った。
その電話を地面に置き、彼は空を見つめたままゆっくりと呼吸を整えている。
「双子は大丈夫らしい。 秋にはハクの方から連絡してもらって状況の確認をする。
まぁ、この時間なら神社に居るだろうから、とくに心配はしてないけど」
「はい」
「で、お前はどうする? アイツを殺ってみる?」
「え、私が……!? 無理ですよ!! 無理無理っ!!」
「……お前なぁ、結局また逃げてんじゃねぇか」
……そう言われても、突然はやっぱり無理だよ……。
それに、相手はカゲロウが飛ばしてきた幽霊……どす黒い塊だ。
「……ここは八峠さんの家の敷地内なので、八峠さんがやってくださいっ」
「じゃあお前の家の中に現れた幽霊はお前が対処しろよ?」
「うっ……そ、それは無理です……」
「また『無理』かよ。 じゃあお前に出来ることはなんなんだ?」
地面に横になったまま、私たちの視線がぶつかる。
……私に出来ること……私は、何が出来るんだろう……?



