「おいオサキ、何故 秋のことは『さん付け』なんだ?」
『秋さんは八峠クンと違って常識のある方だからですよ』
「……このクソギツネ。 どう見ても俺の方が常識があるだろうが」
『違いますよ、八峠クンは馬鹿丸出しです』
「あ? やるかコラ」
『やりませんよ、八峠クンが死んじゃったら困りますから』
……さっきまでの穏やかなムードから一変、八峠さんとオサキが喧嘩を始めてしまった。
というか、オサキは楽しそうにしてるけど、八峠さんがキレかかっている。という状況だ。
「お前、俺の方が弱いって言ってんのか?」
『あれ? 自覚が無かったんですか?』
「……マジ殴るわ。 つーか殺す」
コーヒーのカップを乱暴に机へと置いた八峠さんは、オサキを殺る気 満々だ。
腕をグルグルと回しながらオサキに近づき、射程圏に入った途端に右の強烈なストレートが放たれた。
「「 八峠さんっ……!! 」」
──私と秋さんの声がピッタリと重なったその時、八峠さんの右の拳は、紺のスーツを身に纏った男性に止められていた。
「八峠さん、遊んでないで報告を」
「……ハク、止めてくれるな。 俺は遊んでるんじゃなくて本気でっ」
「オサキを殺しても仕方ないでしょうに。 それに彼は結界を張れる貴重な人材です」
「コイツは人じゃねぇけどなっ!!」
「いい加減にしてください。 僕らの敵はカゲロウです」
薄暮さんは八峠さんの右手を抑えていた手と逆の手で彼の頭を軽く叩き、そのあとにオサキの頭も軽く叩いた。
「はい、これでおしまい。 では報告を」
「……ハク、てめぇ俺をガキ扱いしやがって……」
「僕からすれば、26歳というのは赤ん坊のようなものですが」
「……クソ。 あー、じゃあ報告だ。 秋を襲ったのはカゲロウ本体ではなかった。 力は相当強かったけどな」
「そうですか。 双子の方は問題ありませんでした。おそらく、初めから目的は秋さんだったかと」