「幽霊なんて怖くないッ!!」



「秋さん!!」




急いで窓を開け、二人を中へと招く。




「い、いったい どうしたんですかっ……」

「俺が殴った」

「なっ……どうしてっ……!?」


「だからぁ、カゲロウが秋を狙ったんだよ。 で、俺がコイツを殴ったの」




……カゲロウが秋さんのところへ?

じゃあ、カゲロウの目的は双子じゃなくて秋さんだったの……!?



「俺、買い物があって外に出てたんだ。 その時、変な男に襲われちゃって」




苦笑気味に笑う秋さんが、口元の傷にそっと触れる。

……見てるだけでも痛そうなのに、触るなんてもっと痛いに決まってる。


それでも秋さんは自分の口元に触れながら、襲われた時のことを思い出しているようだった。




「その男は、半分透けてたんだ。 『あぁ幽霊だ』ってすぐにわかったけど、お札を持ってるから大丈夫だって思ってた。
だからスルーして横を通ろうとした時に、その男が襲いかかってきたんだよ。
凄くビックリしちゃってさ、俺、何も出来ないままに体を取られたんだ」

「えっ……」

「あぁヤバい、死ぬ。って思った時に、八峠さんが俺を助けてくれたんだよ」




……秋さんは、幽霊に体を乗っ取られる寸前だったんだ。

そこへ現れたのが、八峠さん……。




「この傷、八峠さんにぶっ飛ばされたんだ」

「しょうがねぇだろ、幽霊を切り離すにはそれが1番手っ取り早いんだから」

「もちろん感謝してますよ。 でも、せめて見えないところを殴られたかったです」


「悪かったな、次は腹パンにするよ」

「次が無いことを祈ります」




アハハッと笑う二人は、凄く楽しそう。

……秋さんって、八峠さんと会うのって初めてなんだよね?

それなのに、もうすっかり仲良しだ。





「おい、双葉 杏。 なにボケッとしてんだよ、コーヒー持ってこい」

「……」

「それと、ついでに救急箱な。 秋の傷の手当てくらいは出来るだろう?」




……『ついで』って。

むしろ救急箱の方がメインだと思いますが……。




「ほら、急げって」

「……はい、今すぐに」




これ以上 文句は言われたくないから、素直に従っておく。

で、コーヒーは砂糖たっぷりだよね。

うん、また文句を言われる前に、ちゃんと砂糖を入れておこう。




「秋さん、すぐに救急箱持ってくるんで、待っててくださいねっ」

「うん、ありがと」




怪我をしてる部分以外は、いつもの秋さんの笑顔だ。

その顔にホッとしながら、私もまた笑顔を見せた。