「でも、もう遅い。 『カゲロウの血』は そういう運命だからね。 アハハハハハッ」
人の形をしたソレの笑い声が部屋に響く。
狂ったように笑い続けるソレは、もはやカゲロウではない。
……カゲロウはもう ここには居ない。
おそらくカゲロウの魂は本来あるべき場所へと帰り、残された目の前の塊は、彼の魂が寄生していた幽霊だろう。
普段 私を追いかけてくる幽霊……呪いのソレとおんなじで、ただの醜いバケモノだ。
「アーハッハッハッ」
「……」
「アハハハハッ、ハハハハハッ」
「……うるさい、黙れ」
冷たく、重い声。
小刀を持った彼の表情は、塊の陰になっていたからわからなかった。
でも、多分……薄暮さんは、私の知らない表情をしていたと思う。
放たれた声と同じように、きっと、冷たい瞳をしている……。
「お前の声は、耳障りだ」
……その言葉と共に、薄暮さんは小刀でソレを切った。
切る……というよりは、斬ると言った方がいいかもしれない。
黒い塊の、人間で言う首の辺りを彼は斬ったのだ。
……まるでロボットのように、躊躇うことなく、当たり前のように。
黒い塊が悲鳴をあげてもがき苦しんでも、彼は斬るのを止めることはなかった。



