「ちょうどこっちに向かってたらしいから、すぐ来ると思う」

『えぇ、口調から なんとなくそうだと思ってましたよ』

「……あぁそうかい、そりゃあ失礼しましたね。 ところで、お前はなんでこの場所に?」


『彼のニオイがしたからです。 昨晩、一縷さんはこの部屋に居ましたよね?』

「あぁ、居たな」




……なるほど。

薄暮さんは昨日 私の部屋に来た。 その時のニオイがまだ部屋に残っていて、オサキを引き寄せたんだ。




「……あの、八峠さん」

「あ?」

「この、オサキ……さん? は、妖怪なんですか?」


「あぁ、『九尾のキツネ』って知ってるか? コイツはそのキツネの尾の毛から出来た妖怪だと言われている。
尻尾の先の毛、それで尾先(オサキ)だ」




おぉ……凄い、ちゃんとした答えだ。

……って口に出して言ったら八峠さんに殴られそうだから、黙って頷くだけにした。





「尾が二股に裂けているから、とも言われていますよ。 尾が裂けるで、尾裂(オサキ)」

「あっ、薄暮さんっ」

「おはようございます、昨日はよく眠れましたか?」


「えぇ、とてもっ」




突然背後に現れた彼に一瞬驚いたけれど、彼は『こういう人だ』とわかっていたから、すぐに笑顔になれた。

昨日から驚きの連続で、もうすっかり慣れたものだ。


薄暮さんはオサキを見つめ『久しぶりだね』と手を振り、オサキもまた『ご無沙汰しております』と嬉しそうに尻尾を振っていた。