300年前。

その言葉を聞き、私と八峠さんは顔を見合わせた。


……300年前と言えば、薄暮さんがカゲロウを仕留め損ねた時だ。

オサキは、もしかしてその時の様子を知っている……?





「……そいつの名前、カゲロウか?」

『いいえ、そんな変な名前ではなく、もっと変な名前でしたよ』

「……薄暮 一縷」


『あぁはい、一縷さんです。 いやぁ、素敵な名前ですよねぇ』




……素敵な名前だと思うのなら、覚えとけばいいのに……。

と私がそう思うのとほとんど同時に、八峠さんもまた『だったら覚えとけよ』と小声で突っ込んでいた。




「ハクの知り合いならまぁ害はないだろ。 今 連絡してやるから、少し待っとけ」

『わぁ、助かります。 見かけによらず お優しい方なのですね。 『“きちく”な“さでぃすと”』だと思っていたので安心しました』

「……お前 俺に喧嘩売ってる? つーか殴られたいの?」


『いいえ滅相もない。 僕は思ってたことを言っただけですよ』

「余計タチが悪いな」




そんなやり取りをしながら、八峠さんは薄暮さんに電話をかける。

八峠さんはとにかく面倒臭そうで、オサキは楽しそう。


……凄いな。 オサキは八峠さんをからかってる。 あの憎たらしい八峠さんを、だ。




「──……つーことで、お前に会いたがってる奴が居るぞ。 うん、うん、わかった。 じゃああとで」




そう言ったあと、八峠さんは電話を切った。