………

……




その後、窓を開けた薄暮さんは屋根に出てから私を見た。

彼は室内から一瞬で外に出られるはずだけど、それでも今は屋根に居る。




「遅くに押しかけてしまってすみませんでした」

「いいえ、全然っ」

「また来ます。 コレは僕の携帯の番号なので、何かあった時は電話してください」


「わっ……ありがとうございますっ」




名前と電話番号だけが書かれた名刺を私に手渡したあと、薄暮さんは笑顔で姿を消した。




「……なんか、凄く……カッコイイなぁ……」




彼と話してる最中も、彼が居なくなったあとも、私の心の中には『カッコイイ』という言葉があった。

どこがどうとかじゃなく、すべてがカッコイイ。

私は、すっかり彼に魅了されていた。






「……名前、イチルさんって言うんだ……」




薄暮 一縷 Ichiru Hakubo

と、名刺に記載されている。


……難しい漢字だ。




「……コレって、一縷の望み、の一縷だよね」




携帯を手に取り、ネットに繋いで『いちるののぞみ』で検索する。

そうすると出てきた漢字は、やはり『一縷の望み』だった。


一縷とは、『1本の糸。また、そのように細いもの』。

それともう一つ、『ごくわずかであること。ひとすじ。「―の望みを残す」』とも出てきた。


……現在生きている不老不死は、カゲロウを除けば薄暮さんだけ。

彼の存在自体が、まさに一縷なのかもしれない。