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その日の夜遅く──時刻で言えば23時を回ったところだ。
仕事から帰ってきたお父さんとお母さんは既に床に就き、私もまた自室のベッドの上に居た。
……薄暮さんが私の前から姿を消したあと、私は一度も幽霊を視ていない。
外に居るだろう薄暮さんが、幽霊が家に入る前に対処してくれているからだと思う。
だから私は、結界が張ってあった頃と同じようにリラックスしながらベッドに寝転んでいた。
あのあと、結局薄暮さんは来ていない。
……ということは、彼はまだ、幽霊の対処にあたっているのかもしれない。
「……薄暮さん、大丈夫かな……」
小さな声でそう言った時、傍らに置いていた携帯電話がメールの受信を知らせた。
差出人は、秋さん。
【八峠さんと話すことは出来た?】
そのメールを見て、秋さんに連絡するのを忘れていたことに気付く。
時間はずいぶん遅いけれど、私はすぐに秋さんに電話をかけることにした。
……数回のコールの後、秋さんの柔らかな声が聞こえてきた。
『もしもし、杏ちゃん?』
「あ、もしもしっ。 秋さんごめんなさい、色々あって、連絡するのをすっかり忘れてました……」
『いいよ、大丈夫。 それで、八峠さんとはどうだった?』
「えーっと……私が家に着いた時、八峠さんが家の前で待ってたんです。 で、少しだけお話をして……」
『え、八峠さんと会ったの? 俺は数年前に電話で話しただけだったけど、杏ちゃんは彼に会ったんだ?』
「はい、会いました。 ……すっごく変な人でした」
八峠さんとはあまり話は出来なかったけれど、見た目だけで言うなら相当変な人だった。
というか、本当に凄い人なのか? と感じた。
自分では何もせずに薄暮さんにすべてを任せ、のんびりとソファーに座ってコーヒーを飲み、それが終わるとさっさと帰ってしまうような彼が、本当に凄い力の持ち主なんだろうか?
本当に凄いのは、薄暮さんなんじゃ……?



