「……だけど、そろそろ限界かな」




カゲロウには聞こえていないだろう小さな声で言う。


誰にも気付かれないように振る舞ってきたけれど、体は相当弱っている。

体の中はあちこち出血していて、きっとボロボロだ。


参ったなぁ。

あと1歩が届かない。


今はお互いに立ち止まっているけれど、カゲロウが動き出したら追いつけずにどんどん離されてしまうと思う。


ギリギリで着いていったとしても、最終的な結果は目に見えている。




「……僕は、昔よりもずっとずっと強くなったと自負していたよ。 だけど、カゲロウには全然かなわないや」




やっぱりダメなのかな?

ここで負けるのかな?


八峠さんが生きていることはわかったけれど、それでも、僕はカゲロウに負けるのかな。





「……僕は、ずっとお前が羨ましかったよ」




ポツリと出た言葉に、カゲロウはまた眉間にしわを寄せた。

それでも僕は言葉を止めることなく、ゆっくりとゆっくりと話をする。




「僕はカゲロウのように強くなりたかったんだ。 カゲロウくらいの力があれば、きっとたくさんの人の力になれたから」




呪術師というのは、呪いを行うことだけが仕事じゃない。

本来は、人々に寄り添い、助けることが呪術師の役目だったんだ。


みんなのことを助けたい。

みんなの命を守りたい。


だからこそ僕は、カゲロウが持っている力が欲しかった。




「……俺は、あんたの方が羨ましかった」




重たい声で言うカゲロウは、ジッとこちらを見つめながら言った。




「あんたの周り集まる人たちは いつも幸せそうだったし、あんた自身だってそうだ。
いつもニコニコしていて、いつだって幸せそうな顔をしていたじゃないか。
俺はそういう人間になりたかったんだ。 だけど俺の周りに集まるのは邪心を持った奴らばかりだった。
俺の力を利用し、世界を我が物にしようとする奴らしか現れなかった。 ……だから殺したんだ。
呪いを使って、全部を壊してやったんだ」

「カゲロウ……」

「あんたにはわからないだろう? 同じ空の下に居たって、周りからの評価はまるっきり違う。
あんたは光で俺は闇。 俺は闇の中を進んでいくしかなかったんだ」