八峠さんがそっと私の手を握る。

ううん、握るというよりは、私の手に自分の手を重ね合わせただけだ。

手に力を込めることも出来ないほどに彼の力は消耗していたし、私もまた同じだった。





「ねぇ、八峠さん」

「おう」

「八峠さんのこと、名前で呼んでもいいですか?」


「……闇の中で『いい』って言っただろ?」

「でも、闇の中と今は、違いますから」




重ね合わせた八峠さんの手のぬくもりを感じながら、ゆっくりと目を閉じる。




「……私、祥太郎さんともっと一緒に居たいです。 もっと、祥太郎さんのことが知りたいです」




薄れゆく意識の中で、なんとか自分の思いを伝えきる。

その言葉に、八峠さんはすぐに言葉を返してくれた。




「50年後も一緒に居るんだろ? だから、イヤというほど一緒に居られるよ」




いつもよりも柔らかな声。

それを聞きながら、私はゆっくりと眠りについた。