「カゲロウ…さんは、もう何百年も前からこの人を操ってきたんでしょう?
だったらもう十分だと思う。 そろそろ解放してあげてもいいんじゃないかな」

「……」

「……カゲロウさんはさ、ユキさんのために多くの人の命を奪ってきたんだよね?
『カゲロウの血』だけじゃなくて、他の人間も……私たちのことを狙っていたのも、あなたなんだよね?」


「……そうだね、そうなるよ。 雪の命を守るには多くの犠牲が必要だったんだ」

「うん、わかってる。 それをイツキくんにもやらせていたんだよね?」




……強い力の持ち主であるカゲロウと話す雨音さんは、真っ直ぐに彼の目を見つめていた。

結界なんてすぐに破られて、すぐに殺されてしまうかもしれない状況なのに……それでも雨音さんは、カゲロウの目を見て話をしている。




「この人はカゲロウさんの命令を聞いて、いっぱいいっぱい頑張ってきたと思う。
何年も何年も、カゲロウさんとユキさんのために頑張ってきたんだよ。
……だから、もういいんじゃないかな。 もう十分だよ」

「……」

「お願いします。 この人を解放してください」




そう言って雨音さんが深々と頭を下げるのと同時に、カゲロウが何か呪文のようなものを唱えた。

それは多分、契約を解除するためのもの……。


その呪文が完全となった時、イツキさんの体が光に包まれた。




「斎。 お前とは長い付き合いだったけど、今日限りでおしまいだ。
お前が俺の手元に残ったとしても、お前はもう人を殺せない。 だからサヨナラだ」




まるで魂が天に召されるかのように、イツキさんの体は空へと向かって消えていく。


……イツキさんは、笑っていた。

最後まで雨音さんの手を握り締め……とても幸せそうに笑っていた。








「またね、イツキくん」




雨音さんの小さな声を聞いた時、彼の体は完全に消え、彼が作り出していただろう結界も消滅した。