……僅かな呼吸の乱れと、確かなスピードダウン。

高い木の上で左腕を押さえているカゲロウの足は、完全に停止した。




(……狙いを外した。 だけど、効果はあったか……?)




あと少しで心臓に届きそうだった。

だけどその瞬間に避けられ、致命傷には至っていない。

……と思ったけれど、左腕からは今も絶えず血が流れている。




「……参ったな、動脈が切れたらしい。 しかし、このくらいならば修復は可能か……?」




独り言のように言ったカゲロウは、押さえていた手をそっと外した。

今もまだ血は流れ続けていたけれど、それは次第に勢いを弱め、そして止まった。




「……うん、やっぱり大丈夫だ。 まだまだ行ける。 もっと楽しもう」




……動脈が切れていても、修復は可能。

時間を開けずに斬り続ければ奴を倒すことは可能だろうけど、それは反撃を食らうリスクが高くなるということだ。


……やはり、心臓を一突きにすることが確実か……?






「薄暮。 戦ってる最中の考え事は厳禁だよ? その一瞬が命取りになるからね」

「……っ……」




突然 目の前に見えたカゲロウの笑み。

そして、力を帯びた重たい拳。


……回避不能。

なんとか防御をっ……!!









「くっ……」






──……咄嗟に前へと出した小刀が、カゲロウの拳にぶつかった。