【終わり】




【薄暮side】


………

……




オサキと共に飛び、小屋から8キロほど離れた場所へと降り立った。

何故その距離で降りたのか? ……それは、カゲロウがその場所に居たからだった。




「久しぶりだね、薄暮」

「……」

「悪いがこれ以上は近づかないでくれ。 雪を巻き込みたくはないんだ」




……なるほど。 ユキさんを守るために敢えてここで待っていたというわけか。

そしておそらく、もっともっと離れるつもりだろう。

僕らの力が本気でぶつかれば、8キロなんて距離はあって無いようなものだから。




「オサキ、5秒後に小屋へ向かって走って。 八峠さんが居るはずだから、彼と合流するんだ」

『わかりました』

「カゲロウは僕が引きつける」




5秒。

その短い時間の中でカゲロウとの間合いを詰め、小刀を抜く。

カゲロウはクスリと笑いながらこちらの攻撃を回避し、即座に反撃してきた。

今度はこちらがソレを回避したのち、また小刀で反撃だ。


そしてその間に、オサキは小屋へと向かって駆け出していた。







「オサキギツネは、昔よりも速く動けるようになったようだね」



カゲロウは相変わらずの笑顔でそう言った。

オサキを追う気配は全く無く、余裕の表情だ。




「……ユキさんは今にも死にそうなんだろう? なのに、随分と余裕があるね」

「雪は死なないよ。 もうすぐ『カゲロウの血』が手に入る。 ここでお前を殺せば、俺たちは再び永遠を生きることが出来るんだ」




……もうすぐ『カゲロウの血』が手に入る?

それは、八峠さんを殺したということか……?


……いや、『もうすぐ』という言葉は、『今はまだ』ということだ。


まだ『カゲロウの血』は手に入っていない。 八峠さんは、まだ生きている。




「……カゲロウ。 彼女は自ら死を選んだんだろう?
他人の命を犠牲にしてまで生きたくはない……そう思ったからこそ、彼女は自分で自分の命を終わらせようとしたんじゃないか?」

「あぁ、その通り。 雪を裏切ったのは俺だよ。
遙か昔、もう人殺しはしない雪に約束したが、雪との時間を生きるためには、犠牲が必要だったんだ」

「……彼女はきっとまた死を選ぶよ。 お前が何度助けたとしても、彼女はずっと……」


「わかっているさ。 わかっているとも。 俺はね、お前との戦いが終わったら、雪の記憶を消そうと思っているんだ」




……記憶を、消す……?

長い時間一緒に過ごしてきたのに、その時間を消すというのか……?