……うん。

亡くなった人は、もう戻っては来ない。 でも、その人たちの分まで私たちは生きることが出来る。

生きなくちゃいけないんだ。


全力で、精一杯に。




「……わかった。 俺も精一杯にやろうと思う」




雨音さんの手に自分の手を重ねたイツキさんは、逆の手でユキさんの体に触れた。

私と氷雨くんも、雨音さんとイツキさんの繋がれた手へと自分の手を重ねる。


私たちの周りが、淡い光に包まれ……その光が、ユキさんの体内へと入っていった。

そして……、





「う……」




……眠り続けていたユキさんが、ピクリと体を動かした。




「雪……俺がわかるか?」

「斎、さん……?」

「あぁ、俺だよ」


「……私、生きてるんですか……? どうして……まさか、人を……?」

「いや、誰も殺していない。 彼らが助けてくれたんだ」




ゆっくりと体を起こしたユキさんは、私たち3人を静かに見る。

雨音さんは苦しそうな顔をしながらも笑みを見せ、氷雨くんは『どーも』と重たそうに腕を上げて手を振った。

そして私は、『こんにちは』と言おうと思ったけれど、上手く言葉を出すことが出来ずにその場に倒れ込んだ。


イツキさんに力を渡し、そしてユキさんにも力を渡した代償だろう。

もうほとんど力は残っていない。

酷い眠気は、力を回復させようとする体からの緊急信号だ。


でも、眠るわけにはいかない……まだ、世界は救われていないから……。




「……杏、本当にすまない」




申し訳なさそうな顔で頭を下げるイツキさんに、なんとか笑顔で応える。

だけど、やっぱり体は言うことを聞いてくれなくて……私はそのまま、深い深い眠りへと落ちていった。