──そこは、深い深い山奥の、そのまた山奥。

秘境と呼ばれるだろうその場所に、小屋は建っていた。




「え、ちょ……なに、これ……」




小屋の一部が破壊され、外の木も数本が倒れている。

小屋から『何か』が飛び出して、木々を倒していった……?


……でも、小屋から木へ、木から木へと視線を移していっても、そこには何も無い。

『何か』が小屋を飛び出して木々を倒していったのは確かだと思うけれど、それがなんなのかは私にはわからなかった。




「イツキくんっ。 中に居るのがユキちゃん?」

「あぁ、雪だ。 ……まだ息がある」




雨音さんとイツキさんの声を受け、小屋の中へと視線を移す。

破壊された壁の先に、横たわる女性の姿があった。

彼女が、ユキさん……。


その場に居た全員が駆けるようにと小屋へ近づき、壊れた部分から中へと入った。


……雪さんの服は血にまみれていて、彼女の口元からも血が流れている。

辛うじて息はあるけれど、意識は無い。




「イツキくん。 この子のことも助けよう」

「……なに……?」

「イツキくんを助けた時と同じだよ。 もう一度生きて、色々なことを見て、知って、そして『いい人生だった』と言って最期を迎えよう?」




……雨音さんは、このまま彼女を見捨てるんじゃなくて、彼女にも、限りある命を全うさせるつもり……?




「この子は、責任を感じて自分の命を消そうとしたんでしょう?
でも、責任を感じているのなら、亡くなった人たちの分まで生きるべきだよ」

「……」

「お願い、力を貸して? さっき双葉ちゃんから力を移したように、誰も殺さずに彼女へ力を渡してあげて」




真っ直ぐにイツキさんを見た雨音さんは、ユキさんの手を掴んだあとに、もう片方の手をイツキさんへと伸ばした。




「私たちはみんな大切な人を失っている。 でも、私たちは生きているんだよ。 亡くなった人の分まで、精一杯に生きているんだ」