……結局私には、何も出来ない。

私はここで、ただただ世界の行方を見守るだけ……。




「双葉ちゃん、ちょっと手を貸して」

「……え?」

「氷雨も、ほら早くっ」




私と氷雨くんの手を掴んだ雨音さんが、部屋の隅に居るイツキさんの元に駆け寄った。




「……かなり弱ってるけど、まだ生きてる。 私たちの力、イツキくんに渡しましょ」

「え……あの……」

「私のグーパンのせいでこうなったんだったら、全部私が悪いってことでしょ? そんなのイヤ。 だから助けるんだよ」




助ける……イツキさんを、私たちの力で……?




「『カゲロウの血』も『呪われた家』も、いっぱいいっぱい命を奪われたけどさ。
でも、イツキくん言ってたでしょ?『人は限りある命の中だからこそ輝ける』って。
イツキくんはやっとそれに気付いたのに、そのまま死んじゃうなんて もったいないじゃんっ」

「……っ……」

「もっと生きなきゃダメだよ。 そして幸せなことをいっぱい見つけたあと、『いい人生だった』って言って死ぬんだよっ」




イツキさんに手をかざした雨音さんは、笑っていた。

この人に殺されかけたのに、それでも笑っている。


前向きに。 ただただ前へと進んでいる……。




「……そうですよね。 イツキさんには、生きて世界を見てもらわなきゃ……」

「そうだよっ。 だからほらっ、手を貸してっ」

「……はいっ」




長い長い年月を過ごしてきたイツキさんは、私たちに言った。

『ずっと目を逸らしてきた』と。

限りある命の中で生きている私たちから、ずっと目を逸らして生きてきたんだ。


……でも、今はちゃんと私たちを見てくれた。 八峠さんを通して、人間のことを想ってくれていた。

だから、助けたい。

この人は今までずっと、多くの人を殺してきたのかもしれないけれど。

それでも、未来はきっと変わるから……。