【八峠side】


………

……






ソファーで眠りについてから、どのくらい経っただろうか。

ふと目を覚ました時、そこに杏は居なかった。




「……どこ行ったんだ?」




ぼんやりとした視界の中で、テーブルへと視線を移す。

そこには見慣れた一枚の名刺が置かれていた。




「ハク……アイツ、来たのか」




薄暮 一縷 Ichiru Hakubo

そう書かれた名刺は、俺が作成してハクに持たせた物だった。


その名刺を手に取ってみると、裏面に書き置きがされている。

その内容は、【オサキが見つかったので、杏さんを連れて氷雨くんのところへ飛びます】だった。




「……そうか、戻ってきたんだな」




なんで氷雨のところに居るのかは わからないけれど、それでもオサキは戻ってきたのだ。

ちょっとだけ憎たらしい奴だけど、それでも戻ってきてくれたことは素直に嬉しかった。




「……」




室内を、ぐるりと見回す。

俺の張った結界はリビングだけだったけれど、今は家全体が結界に覆われている。


しかも相当強い結界だ。

集まってきた幽霊たちは為すすべもなく家の周りをグルグルと飛び回り、勇猛果敢に突進してきた霊は結界にぶつかった瞬間に消し飛んだ。




「……まったく、アイツの力は底抜けだな」




こんなに強い結界を張ったら、普通は2、3日身動きが取れなくなるけれど、アイツはきっとなんでもないような顔で笑うんだろうな。

ほんと、すげー奴だ。




「こんだけ強い結界なら、もう一眠りも余裕だな」




だらしなくソファーに寝転がり、大きなアクビをする。

幽霊の侵入は無し。 今後、侵入されることも無し。


100体以上の霊に狙われてるとわかった時はどうなることかと思ったが、案外余裕だな。

余裕のよっちゃんだ。


なんてことを思いながら、目を閉じた時──。






ガタンッ


「……」




──……リビングのちょうど真上の部屋から、大きな音がした。