「『カゲロウの血』は、色が濃いからだと思います」

「色が濃い? どういう意味?」

「カゲロウはとても強い力の持ち主だから、その子孫である『カゲロウの血』も当然 強い力の持ち主となる。
普段は他の人と大差無いですが、覚醒すれば相当強いんです」


「なるほど、『カゲロウの血』を殺せば一気に強い力が手に入るんだ」

「えぇ、 一人殺すだけで通常の何百倍もの力が手に入る。 だから『カゲロウの血』を狙っているんだと思います」




何百倍か……そりゃあ確かに狙うわな。

幽霊が視えるって人は何万人も居るけれど、その人たちをちまちまと殺しても時間が足りない。

力が溜まりきる前にユキは死んでしまう。 だからこそ、カゲロウは『カゲロウの血』を狙うんだ。




「……けどさ、統制が取れてないのなら意味無いよな。
いくら幽霊をぶつけても八峠さんの力なら普通に勝てるし、薄暮さんの結界も破られることはない。
つまり、カゲロウの負けじゃん?」




カゲロウのやってることは、競馬で言えば『大穴を狙ってる』ってことだ。

大穴を狙ったって、そう簡単に当たるものじゃない。


下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる なんて言葉もあるけれど、今回は絶対に当たることは無い。

だって、結界の中に居る限り幽霊と戦う必要すらないんだから。




「まぁ、ユキって人は死んじゃうだろうね。 それが彼女の選んだ道だから、彼女自身は納得して死ぬと思うよ」




雨音さんの言葉に俺はウンウンと頷くけれど、俺以外のメンバーの表情は優れない。






「……氷雨はさ、カゲロウがこのまま黙ってると思う?」

「え?」

「ユキさんは自殺だけど、自殺する理由を作ったのはオサキちゃんだよ。
私がカゲロウならオサキちゃんを殺したいほど憎むだろうし、実際に殺しにかかる。
その過程で他の人間を巻き込んだとしても、そんなのは関係ない。 目的は一つ、オサキちゃんを殺すこと。
つまりさ、カゲロウは暴走すると思うんだ」




……暴走……。

まさか、そんな……。




「……オサキと関わりのある私たちは、きっとすぐに殺されると思う。
ううん、私たちだけじゃなくて……世界が、全部 壊されてしまうかもしれない」




今まで口を閉ざしていた双葉ちゃんの言葉は、そう遠くない未来を示唆していた。


……カゲロウは、世界を崩壊させる。

人類滅亡の日が近いことを、俺はその時に初めて知った。