「……私が八峠さんと同じ立場だったら、絶対に逃げますよ。
敵は討ちたい。 でも『出来ない』って諦めて、逃げ続けると思います」

「……」

「他の『カゲロウの血』のこととか、見知らぬ大勢の人のこととか……そういうのは全然 何も考えずに、自分のことだけを考えて逃げ続けますよ。
だけど八峠さんは違う。 逃げずに戦っているし、私のことも守ってくれている。 それに、他の人のことも考えている……。 そういう風に出来るなんて、凄いですよ」




……そうだよ。 八峠さんは凄いんだ。

面倒臭そうな顔をしながらも私を助けてくれるし、なんだかんだ言いながらも、今だってこうやって私のそばに居てくれる。

ずっとずっと、守ってくれている。




「……だから、自分を責める必要なんてっ……──」

「お前さ、俺に抱かれたいの?」

「──……え? あ、いやっ……えっ!?」


「ガキが、いっちょまえに男を慰めやがって」




クルリと こちらを向いた八峠さんは、ニヤリと笑ってから体を起こした。

ぜ、全然泣いてない……。




「抱いてもらいたいのなら素直にそう言えよ、いつでも抱いてやるよ?」

「そ、そんなの望んでませんからっ」

「遠慮すんな、ほら」


「ちょっ……八峠さんっ」




逃げる間も無く、あっという間に八峠さんに抱き締められた。

うぅ、お酒臭い。 この人、お酒のせいでおかしくなってる……。




「キスでもする?」

「もぉっ、いい加減にしてくださいっ」

「なんだよ、誘ってきたのはお前だろ?」


「 誘 っ て ま せ ん っ 」




手足を一生懸命に動かすけれど、八峠さんの腕からは逃れられない。

というか、さっきよりも もっと強く抱き締められている。




「八峠さんっ、いい加減にっ……」

「ありがとな」

「……え?」


「そばに居てくれて、ありがとう」




そう言いながら私の頭をポンポンと叩いたあと、八峠さんはゆっくりと体を離した。