「双子の方も、何も無いんですよね?」

「あぁ、何も無い。 氷雨もだろ?」

「はい」




『呪いの家』である氷雨くんも、男子トイレでの襲撃を最後に幽霊に襲われることは無かった。

こんなに長いこと襲われていないというのは、彼にとっても初めての経験らしい。


……同じタイミングで、氷雨くんへの攻撃も止んでいる。

つまりそれは、氷雨くんを襲っていた犯人もカゲロウであるという確率が、更に高まったということだ。


カゲロウと氷雨くんの一族の繋がりは無い。

……カゲロウは、無差別に人を襲っていたのかもしれない。


ううん、今も襲い続けているのかも……。




「……カゲロウは、私たちの身近なところでは動いていないけれど……でも、どこか他の場所で、誰かに呪いをかけているのかもしれないんですよね……」

「うん。 でも確かめようがない」

「……みんな、一生懸命に生きているのに……」


「うん」




ベッドの上で天井を見つめていた八峠さんが、ゆっくりと目を閉じる。

彼は、その状態のまま静かに言った。




「俺とハクは『カゲロウの血』だけを守ればいいって思ってた。 だが、実際 奴は大勢の人間を殺していたのかもしれない」

「……」

「慧のことも秋のことも、奴に殺されただろう大勢の人間のことも……結局 俺は、誰も守ることが出来なかった」




体勢を変えた八峠さんは、私に背を向けた。

……八峠さんは、泣いているのかもしれない。


『守ることが出来なかった』と自分を責めて、苦しんでいるんだ……。








「……でも、私は……私は八峠さんに守ってもらいました」




ううん。 今でもずっと、守ってもらっている。




「確かに、慧さんや秋さんは亡くなってしまったし……カゲロウの呪いで亡くなった方は、他にも居るかもしれません。
でも、八峠さんは自分に出来ることを一生懸命にやっていると思います。 これが、最善だと思うんです」




私はずっと逃げてきた。 でも八峠さんは逃げずに戦ってきていた。

それだけでも凄いって思うし、私のことを守るためにそばに居てくれるのも、本当にありがたい。


……カゲロウの呪いの矛先は私たち『カゲロウの血』だけではないのかもしれない。

今この瞬間も、どこかでは誰かがカゲロウの呪いによって亡くなっているかもしれない。


だけど、でも……。




「……八峠さんは、頑張ってます」




『誰も守ることが出来なかった』なんて、そんな風に思う必要なんて無いよ。