「……ズルいです」

「ん?」

「そんな風に言われたら、変にドキドキしちゃうじゃないですか。
アホみたいに勘違いしちゃうじゃないですか」




八峠さんは、面倒だと思いながらも私のそばに居てくれる。

それは『カゲロウの血』である私が死んだら、今までよりも もっと面倒なことになるから。


それが理由だとわかったのに、それでもドキドキしてしまう。




「……なんか、プロポーズっぽいじゃないですか」




ほっぺたを膨らませながらそう言った私に 八峠さんは『あぁなるほど』と小さく返し、その後なんでもないような顔で言葉を繋げてきた。




「でもまぁ、実際プロポーズみたいなもんかもな」

「……へっ?」

「だって、いつカゲロウを倒せるかはわかんねぇだろ? 50年後もカゲロウの行方は掴めないままかもしれねぇじゃん。
そうなったら、俺らは50年一緒に居るってことになる。 50年後っつったら、んーっと、俺は76で、お前は67?
その歳になったら さすがに今みたいには動けねぇから、札や結界に頼るようになるだろ?」

「あー……まぁ、はい……」

「ヤバい時は戦うかもしれねぇけど、それ以外は平穏に暮らしていきたいじゃん。
平穏ってことは、俺の知らないところでお前が襲われると困るわけだ。 だから多分、50年後の俺とお前は一緒に住んでいる。 俺のそばにはお前が居る。 きっとそれが当たり前の世界になってるよ」