「ツラいものはツラい。 それだけだろ」

「……全然、理由になってないんですけど……」

「んなことねぇよ? だって、言葉の通りだし」




スッと伸ばされた手が、私の頭を優しく撫でる。

私を真っ直ぐに見る八峠さんは、とにかく優しい顔をしていた。




「俺がツラい。っつーのはさ、そのままの意味でしかねぇだろ」

「……え……?」

「お前が消えちまったらツラいんだよ」




……八峠さんが、ツラい。 その言葉、そのままの意味……。

それって、もしかして八峠さんは、私を……?











「お前が死んだ時、お前は絶対にカゲロウに捕らえられるだろう?
その処理をするのは十中八九 俺だ。 しかも『カゲロウの血』は普通よりも強いんだよ。 今のお前の力はゴミほどしか無いが、霊体になれば相当 強いはずだ。
厄介なんだよ、『カゲロウの血』の処理はな」

「……」




……え、それが理由デスカ?




「……結局、面倒臭いってこと?」

「簡単に言えばそうだな」

「あ、そうですか……」





私のことを……とか思ってしまった20秒前の私を殴り飛ばしたい。


……ですよね。 八峠さんだもん、『面倒臭い』って思うのが普通だ。

初めて会った時からずっと、彼は面倒臭そうだったもん。


私が死んだらあとの処理が面倒臭い。 だから死なせないようにしてる。 そういう意味での『ツラい』だったんだ。




「……私って、生きてても死んでても、八峠さんにとっては面倒臭い存在だってことですね」

「おう」

「ハァ……否定されないんだもんなぁ……」


「否定はしないよ、事実だからな。 だが、前にも言っただろ?」




頭を撫でていた八峠さんの手が、私の頬へと移動する。





「面倒を承知でやってるのは俺だから、最後までちゃんと面倒見るよ」




そう言った彼は、清々しいほどの笑顔を私に見せていた。