「……80メートルより外から一気に攻められたら、一瞬で死ぬと思うけどな」
既に居ない氷雨くんに向けられた八峠さんの言葉は とにかく面倒臭そうで、その顔は呆れたようなものだった。
「あの……八峠さんは、これからも私のそばに居てくれますよね……?」
「居るだろうな。 お前が死んだら俺がツラい」
「……」
「なんだよ、居ちゃダメなのか?」
「あ、いえ……そんなことは、ないんですけど……」
「けど?」
ソファーの上で膝を抱えながら、チラリと八峠さんの方を見る。
……八峠さんは、秋さんが亡くなったあと いつも私に言っていた。
『お前が死んだら俺がツラい』と。
私は、八峠さんが言うその言葉の意味がよくわからなかった。
秋さんを悲しませることになるから、ツラい?
カゲロウの血が減ることになるから、ツラい?
それ以外の何かがある?
それとも、何らかの理由があって、八峠さん自身がツラい……?
……彼がどういうつもりで『ツラい』と言っているのか、私にはわからない。
「……『ツラい』って、なんですか?」
「は?」
「たまに言うじゃないですか、『お前が死んだら俺がツラい』って。 それって、どういう意味ですか?」
チラチラと顔を見ながら言う私に、八峠さんは少しだけ考える素振りを見せたあと、小さく言った。



