──誰にでも。
その言葉を受け、言いようのない恐怖が押し寄せる。
私たち『カゲロウの血』は、『カゲロウの子孫だから』という理由があったから狙われている。 と、そう思っていた。
そんな私たちの前に現れたのが、氷雨くん……『呪われた一族』だ。
氷雨くんたちを狙っているのが誰なのかはまだわかっていないし、その理由もわかってはいない。
だけど、もし……もしもこれがカゲロウの仕業で、なんの理由も無く彼らが狙われていたら……。
「……『カゲロウの血』や『呪われた家』だけじゃなく、私たちの知らないところで 大勢の人間がカゲロウに殺されているかもしれない……ってこと……?」
呼吸が荒くなり、胸がズキズキと痛む。
そんな私に、八峠さんは小さく頷いた。
「日本での年間死者数は100万人を越えている。 そこに当てはまる全員が、とは言わないが、カゲロウに魅入られた奴は居たかもしれない」
「……」
「……まぁ、まだわかんねぇけどな」
私の頭をポンポンと叩いた八峠さんは、そのあとまた静かにコーヒーを飲み始めた。
……前に薄暮さんは言っていた。 『彼は呪いの力を武器に、世界を自分の物にしようとしていました』と。
だからこそカゲロウは不老不死の水を飲み、仲間を殺した……。
自分の造り上げる世界に、薄暮さんたちは必要無いと考えていたから……。
「……カゲロウっていう名前は……『カゲロウの血』っていうのは、私たちの間だけで通じるものだと思っていたし、それ以外に『カゲロウ』なんて聞いたことも無かった。
でも、カゲロウは……アイツは私たちの知らない場所で、多くの人たちを……」
「……『世界を自分の物に』、か。 そうじゃなけりゃいいんだがな……」
僅かに息を吐き出した八峠さんを見つめながら、私はただただ、自分の拳を強く強く握り締めていた。



