「氷雨くんの一族を調べてみるよ。 どこかでカゲロウと繋がりがあるのかもしれないから」

「……もし、繋がりがあったら……」

「彼の一族も守る対象。 繋がりがなかったら、その時は他の可能性を考えるだけだよ」




ポンポンと私の頭を叩いた薄暮さんは、小さく息を吐いてから立ち上がった。




「氷雨くんと会いたいんだけど、連絡つく?」

「あ、うんっ。 すぐ電話するねっ」

「うん」




携帯のアドレス帳に登録したばかりの氷雨くんの番号へと電話をかける。

そうすると、すぐに電話は繋がった。





「あ、もしもし氷雨くん? 今、大丈夫?」

『ゴメン、ちょっと襲われてるっ』

「えっ……い、今どこ!?」


『学校。 北校舎3階の男子トイレの中で籠城中ー』

「……っ……北校舎の3階ねっ!! すぐ行くっ!! すぐ行くから待ってて!!」

『いやいやっ、来たら危ないしっ』


「大丈夫っ!!」




氷雨くんと会話しながら、私は薄暮さんを見た。

薄暮さんは既に手を差し出していて、飛ぶ準備は済んでいるらしい。


薄暮さんの力……テレポーテーションならすぐに校舎へ向かうことが出来る。




「3秒で行くっ!!」

『いやいやいやっ、さすがに3秒では──』




と、氷雨くんが言葉を繋げてる途中で、私は薄暮さんの手を握り締める。


そして……──まばたき の直後、私と薄暮さんは北校舎3階の男子トイレの中に居た。




「──無理でしょっ」

「無理じゃないよ?」

「うわっ!? 双葉ちゃんッ!?」




突然現れた私たちに氷雨くんは驚愕し、飛び跳ねる。




「ちょ、どうやったの!? なに、なんなのコレ!?」

「あとで説明するよ。 薄暮さん、力を使わせちゃってごめんなさい」




深々と頭を下げる私に、薄暮さんは『大丈夫』と言って微笑んだ。




「それよりも、今は敵を倒そうか」

「はいっ」

「と言っても、殺るのは僕だけだよ? 杏さんは、またこの前みたいになったら大変だろ?」


「う……はい……」



ニコッと笑う薄暮さんに私は何も言うことが出来ず、いまだ混乱している氷雨くんと共に薄暮さんの背中を見つめるだけだった。