通学路に敵影は無い。
40代のサラリーマン風な霊を1体だけ視たけれど、こちらには興味も無さそうに通り過ぎていった。
(……病死したのに、それでも仕事に向かおうとしてるんだ)
そんなことを思いながら、交差点で信号待ちをする。
……私はここ数日で、無害な霊たちの『死因』、そして『何をしようとしてるのか』がわかるようになっていた。
瞬時。 とはいかないけれど、5秒ほどで頭の中に情報が流れてくる。
40代のサラリーマン風な男性は、病気で亡くなったあとも会社に通っている。
その理由は、『大きなプロジェクトを任されていたから』だ。
……結局そのプロジェクトは同僚に任せることになり、本人は治療に専念していたけれど、それでも頭では常に仕事のことを考えていた。
だからこそ、霊になっても仕事に向かっているのだ。
(……あ、もう1体)
信号が青に変わり、横断歩道を渡ってる途中でもう1体の霊を感じた。
今度は80代の男性だ。
道路を横断中に車に轢かれ、そのまま亡くなったらしい。
……でも、この場所で事故なんて起きてないはずだ。
それとも、私が生まれる前の事故だったから知らないだけかな?
「あの人が亡くなったのは、ここじゃない別の道路だよ」
「……え?」
──私と同じ学校の制服を身に纏った男の人が、隣に並んで歩きながら静かにそう言った。
「10キロくらい離れた道路に居たんだけど、自分を轢いたトラックと同じ型のトラックを見て、思わず着いてきたっぽいね」
「……」
「あぁごめん、急にこんなことを話したら混乱するのは当たり前だよね。 でも、キミも視えてるんでしょ?」
……その人は『キミも』と言った。
つまりそれは、『自分と同じように』という意味だ。
この人も、幽霊が視えている……?
「キミは、双葉 杏ちゃんだよね?」
「……」
体中に緊張が走る。
私はこの人を知らない。 なのにこの人は私を知っている。
……この人がどういう存在なのか、わからない。
「俺は氷雨(ヒサメ)。 キミを殺しに来ました」



