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その深い眠りから覚めたのは、翌日の夕方だった。

私はソファーをベッド代わりにして そのまま眠っていたみたいで、体には毛布がかけられている。


そばに居た薄暮さんが、眠りの正体は『力を使いすぎたことによる反動』だと教えてくれた。


私は昨日、初めて武器を手にして初めて霊を倒した。

当然 力の加減なんかわからずに、無我夢中でだ。


それは多分、普段運動なんて何もしない人が突然フルマラソンを走りきるような、そんな状態だと思う。

そう考えると、体に何も無い方が不自然だし、こうなってしまったことは当たり前のことだと言える。






「しばらくの間 杏さんをこちらで預かるとお家の方に連絡しておきました。
最初は戸惑っていたようですが 秋さんのこともあったので、すぐに了承を得ることが出来ました」

「……迷惑かけてしまって、ごめんなさい」

「いえ、ご家族を巻き込んでしまうことは避けたかったので」


「……あの、薄暮さんっ……」

「はい?」

「えと、その……敬語、使わなくて大丈夫ですよ? あの……昨日みたいな感じで、全然大丈夫ですから……」




昨日の喋り方と今日の喋り方が、また違っている。

ううん、『いつもの喋り方に戻った』だ。


丁寧な言葉遣いで、1歩引いたような喋り方……。 でも私は、昨日みたいにもっと話しやすい感じのまま話してもらいたいと思っていた。




「……ごめんなさい。 私、突然 変なこと言ってしまって……」

「じゃあ杏さんも、僕に敬語は無しで」

「……え?」


「確かに僕は杏さんよりも年上だけど、敬語を使われるほど偉くはない。
それに、僕だけ変わるなんてフェアじゃないだろう?」

「……っ……はいっ!!」

「っていう返事が、まだまだ距離があるね?」


「わっ……すみませっ……じゃなくて、ごめんっ」

「うん、まぁ合格」




ニコッと笑った薄暮さんは、とても楽しそう。

……私たちの距離は絶対に縮まらないと思っていたけれど、でも今 私たちは、二人で一緒に笑い合っていた。