「ハク。 俺はもう一度病院に行ってくる。 秋の親父さんたちに、しばらくついていようと思う」
静かに放たれたその言葉を受け、私はすぐに八峠さんを見た。
彼はタバコをくわえながら、『ハクと一緒に居ろ?』と優しく微笑んだ。
「八峠さん……」
「大丈夫。 俺は一人で大丈夫だよ」
「……はい……」
「しばらく学校も休んで ここでのんびり過ごせ。 な?」
八峠さんが、私のことを心配してくれているのがわかる。
だから私は、これ以上の心配をかけないようにと小さく頷いた。
……その後、八峠さんが部屋を出て行ったあと、私と薄暮さんはソファーへと移動して、並んで腰を下ろした。
涙は相変わらず流れていて、体も小刻みに震えている。
たくさんの人の想いが、私の中に入ってきている……。
「……幽霊はみんな、苦しいんだ……」
「そうだね。 この世とあの世の間に挟まってる状態だから、みんな苦しいよ」
「……カゲロウは、その人たちを……苦しんでる人たちを、もっと苦しめている……」
「うん」
薄暮さんは いつものような丁寧な言葉遣いではなかったけれど、彼の声はとても穏やかで、柔らかいものだった。
「僕は今まで多くの魂を消してきたし、そのたびに たくさんの叫び声を聞いてきた。
八峠さんのご両親のようにカゲロウに捕らわれた『カゲロウの血』もたくさん居たし、その中には当然、親しくしていた人も居た。
カゲロウから解放してあげることが1番いいことだとわかっているけれど、それでもやっぱりツラかったよ」
「……でも、躊躇ってはいけない……」
「そう、躊躇ってはいけない。 彼らの人生が頭の中で走馬灯のように駆け巡っても、僕らは止まってはいけないんだ」



